「HEPAフィルタ付きの真空掃除機」とは

環境省「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル（https://www.env.go.jp/air/asbestos/post_71.html）」本文内には、除去作業に使用する機器として「HEPAフィルタ付きの真空掃除機」という表記が幾度も出てきます。
「HEPAフィルター」「真空掃除機」どちらもあまりなじみのない言葉ですが、どのような掃除機のことを言うのでしょうか。
アスベスト除去作業に必要な「HEPAフィルタ付きの真空掃除機」についてまとめました。

真空掃除機とは？普通の掃除機と違うの？

掃除機内部の空気を外に排気することで真空状態になり、外部との気圧差が生まれます。空気は気圧の高い方から低い方に流れるので、この気圧差を利用して吸引する仕組みの掃除機が「真空掃除機」です。

アスベストに使える掃除機＝真空掃除機、と誤解されることがありますが、真空掃除機は集じん方式として一般的な物で、単に「真空掃除機」というだけではアスベスト回収には使用できず、「HEPAフィルターが付いている」という条件があります。

HEPAフィルター(へパフィルター)の選び方

ここで注意が必要なのが「HEPAフィルターのスペック」です。
前述のマニュアルに出てくる「HEPAフィルター」は日本国内規格JIS Z 8122の基準を満たす高性能フィルターのことを差すのですが、実はどんなフィルターを「HEPAフィルター」と呼ぶかの定義付けは国によって異なります。

JIS Z 8122ではHEPAフィルタは「定格流量で粒径0.3μm（マイクロメートル）の粒子に対して99.97％以上の粒子捕集率を有し、かつ初期圧力損失が245 Pa(25 mmH2O)以下の性能を有するもの」と定義されています。
1μm（マイクロメートル）＝0.001mmなので、アスベストに使用できるHEPAフィルターは「大きさ0.0003mmの粒子を99.97％以上捕集できるフィルター」となります。

欧州EN規格ではHEPAフィルターは粒子捕集率によって5クラスに分かれており、この5クラスのHEPAフィルターのうち、JIS Z 8122を満たすのは最上級クラスの「H14クラス」のHEPAフィルターのみです。

それ以下のクラス（E10、11、12、H13）もEN規格でHEPAフィルターではあるので、これらのフィルターを付けた真空掃除機も「HEPAフィルター付き真空掃除機」として販売されています。
もちろんEN規格のHEPAフィルター付き真空掃除機が販売されていること自体は全く問題ないのですが、アスベスト対策として導入する場合にはJIS Z 8122規格のHEPAフィルターが付いた製品でなくてはならない、という点に気を付けましょう。

ちなみにH14クラスの上はHEPAフィルターではなく「ULPA（ウルパ）フィルター」と呼ばれる高性能フィルターです。
当然アスベストにも使用できますが、かなりオーバースペックと言えます。
ULPAフィルター付き掃除機は主にクリーンルームや研究室など、わずかな粉塵も許されない空間で使用されます。

アスベストを「漏らさない」真空掃除機を選びましょう

さいごに、「真空掃除機」「HEPAフィルター付き」という条件のほかに、アスベスト回収に重要な条件がもう一つあります。
それは「回収したアスベストを外に漏らさない」事です。
たとえどんなに高性能なフィルターでアスベストを回収したとしても、掃除機本体の嵌合部（かんごうぶ…つなぎ目の箇所）などから漏れ出してしまっては意味がありませんので、各所の嵌合部に漏れ対策が施されている機種を選ぶようにしましょう。

また、フィルターの面積は広いほど詰まりにくく、フィルターが小さいとすぐに詰まり、吸い上げた粉塵が行き場を無くして外に漏れだしやすくなります。
家庭用やアスベスト非対応の機種はフィルターも小さいものが多く、漏れの対策もなされていないため、アスベスト用途の使用を禁止しているメーカーもあります。